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過硝酸を利用した世界初の殺菌技術の実用化

TEL. 06-6105-5211

大阪大学大学院工学研究科 北野研究室

開発の経緯History

防菌防黴学会誌より

『プラズマ殺菌から過硝酸を用いた化学殺菌へ』

私が所属する大阪大学工学研究科アトミックデザイン研究センターは、もともと核融合プラズマに関する研究をしており、学生時代から長らくプラズマ物理に関する研究に携わっておりました。時代の流れもありプラズマ応用に関する研究拠点として生まれ変わり、助手だった私も研究テーマを変更することになりました。
大気圧低温プラズマジェットに関する研究を始め、LFプラズマジェットと呼ばれる新しいプラズマ源の開発ならび放電メカニズムの物理研究を行っていましたが、ふとしたきっかけで、高校の同級生である大阪産業技術研究所の井川聡主任研究員が細菌に関わる研究をしていることを知り、新しい研究テーマを探索していた私は同窓生のよしみで「うちのプラズマでバイ菌さんを殺せないかな」という雑な感じで話をしたところ、しぶしぶ共同研究を引き受けてくれました。
LFプラズマジェットは物理研究としても興味深いところがあったのですが、千円程度のコストでも装置製作が可能であり、簡便に大気圧低温プラズマを扱えるという工学的なメリットがあり、比較的スムーズにプラズマ源の導入が進みました。
菌懸濁液のプラズマ殺菌からスタートしたのですが、当初はほとんど殺菌効果がありませんでした。「なんか新しい事あるんじゃない」と根拠も無く主張して実験を継続していただいたところ、数ヶ月後に、ふとしたきっかけで、pHを4.9よりも下げることでD値が1/100になる事を発見し(低pH法)、これなら使えるかもということでその作用機序の解明に取りかかりました。
プラズマそのものが液中に浸透するのはあり得ないので、液中に生成された活性酸素が重要だと考えていたところ、ふとしたきっかけで、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2-・)の酸解離平衡のpKaの値がほぼ一致していることに気づき、平衡により生成された電気的に中性なヒドロペルオキシラジカル(HOO・)が殺菌作用をもたらしている事がわかってきました。
プラズマ研究者は気相中の活性種の診断に関して様々な手法を使えるのですが、当時、液中のラジカル診断に関して行き詰まっていたところ、ふとしたきっかけで、大阪大学男声合唱団の同期である神戸大学の谷篤史准教授と再会しました。、彼は学生時代から電子スピン共鳴装置を使った地球惑星科学に関する物理化学研究をしており、「ラジカル診断ならまかせてくれ」という事でしたので、共同研究を開始することになりました。3人でいろいろな議論を行い、スピントラップ法による液中のO2-・測定などを通じて、プラズマ誘起液中化学反応の解明が進みました。
ふとしたきっかけで、鶴見大学歯学部の大島朋子学内教授と知り合い、プラズマ殺菌技術のう蝕(むし歯)や感染根管治療など歯科応用に関する研究を進めることになったのですが、バイオフィルムや象牙細管(歯質の微細構造の1つ)内部に入り込んだ細菌の殺菌が必要になり、殺菌力不足という問題に直面しました。
物理化学的な研究を進める中、プラズマの直接照射ではなくて、プラズマを照射した水であるプラズマ処理水は活性種を濃縮できるうえ、液温を下げることで長期間にわたり殺菌活性を保持できることがわかりました。大阪大学で生成したプラズマ処理水を横浜の鶴見大学へ冷凍輸送し、ヒト抜去歯のう蝕感染モデルに適用したところ、10秒で検出限界以下までの殺菌に成功しました。
低pH法は、O2-・の酸解離平衡が関与しているというのが、ミセルを用いた人工細胞モデルによる反応速度論的な研究からも明らかになってきていたのですが、文献に書かれているO2-・の半減時間とプラズマ処理水の殺菌活性の半減時間は大幅に異なっており、何らかの前駆体がプラズマ処理水中に存在していると考えるようになりました。
井川氏の同僚である分析化学を専門家とする中島陽一主任研究員に相談したところ、イオンクロマトグラフを用いた成分分析等を進めていただき、最終的に過硝酸(HOONO2)が有効成分であることが判明しました。過硝酸自体は古くから知られている化学種ですが、寿命が短い事からほぼ応用はなされておらず、過硝酸による殺菌は世界で初めてであることが文献調査によりわかりました。我々はプラズマという物理的なエネルギーを用いて過硝酸溶液を作り、そこからラジカル解離したHOO・を殺菌に利用していたということだったのです。過硝酸そのものは化学反応により生成することができますので、現在は、プラズマではなく化学合成法に大きく舵を切り替えて研究を進めているところです。
私は以前より本学会の会員ではあったのですが、作用機序がかなり明らかになってきたということもあって年次大会で初めての発表を申し込みさせていただいたタイミングで、本原稿の依頼があり筆を執らせていただきました。化学合成した過硝酸は3000倍希釈してもオキシドール相当という高い殺菌力を有するのですが、体温程度で速やかに熱失活するという特徴を兼ね備えており、コストも低く、新しい殺菌技術として様々な利用が可能であると考えておりますので、ご興味のある方は連絡を頂ければ幸いです。

【日本防菌防黴学会誌「培養 会員の声」(2018)へ北野が寄稿した内容より】

異分野連携

物理、物理化学、分析化学、生化学、構造生物学、分子生物学、歯学、医学と幅広い研究分野の研究者に参画していただいております。

研究開発のコンセプト

プラズマ殺菌の研究を行っている当初より、pHを4.8以下にして殺菌を行うことで殺菌力が100倍になるという低pH法を利用して研究を進めてきました。関連研究よりも圧倒的に高い殺菌力を実現できていたのですが、実際の応用を想定したモデルでの研究を進めていきます。

外部発表

2019/11 プラズマ・核融合学会、名古屋、招待講演
2019/11 第29回日本MRS年次大会、横浜、招待講演
2019/10 The AVS International Symposium and Exhibition, (Columbus, USA), 招待講演
2019/9 学振151委員会、招待講演
2019/5 The Eight Central European Symposium on Plasma Chemistry (CESPC-8) , Slovenia, 招待講演
2019/3 7th International Conference on Advanced Plasma Technologies (ICAPT-7), Hue, Vietnum, 招待講演

外部予算

2021/4 AMED 橋渡し研究戦略的推進プログラム
2021/4 学術振興会 二国間交流事業
2019/11 AMED 橋渡し研究戦略的推進プログラム
2018/9 大阪大学 大阪大学の研究成果の 実用化に向けた用途探索・事業化プラニング支援プログラム
2018/4 文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究B
2017/11 大阪大学 InnovationBridgeグラント 大型産学共創コンソーシアム組成支援プログラム
2017/11 文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究B
2012/4 文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究B
2010/6 JST 研究成果最適展開支援事業(A-STEP)ハイリスク挑戦タイプ

バナースペース

過硝酸応用研究開発コンソーシアム

〒565-0871
吹田市山田丘2-1 大阪大学大学院 工学研究科 環境エネルギー工学専攻 A12棟201号室
北野勝久
pna@ppl.eng.osaka-u.ac.jp

TEL 06-6105-5211
FAX 06-6105-5211

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